妊婦さんが東京マラソンに出場して完走した話。

3年目でようやく出場権を得て、医師と相談して「無理をしない」という条件でスタートした。

http://www.yomiuri.co.jp/sports/tm/2009/news/20090323-OYT1T00168.htm

「3年目でようやく出場権を得て」というくらいだから、数年前からマラソンのための練習はしてきたのだと考えられる。すでに他所のマラソン大会には出場しているかもしれない。少なくとも付け焼き刃のランナーであるとは考えにくい。
また、

ゆっくりのジョギングを貫き、6時間13分の“長旅”だったが、

http://www.yomiuri.co.jp/sports/tm/2009/news/20090323-OYT1T00168.htm

とのことで、単純計算すると、1kmあたり、8分50秒のペース。運動していない人にはきついペースだけど、そこそこの練習積んでる人なら、ほとんど息を切らさず、脈もそんなに上がることなく、走れる速さだと思う。いくらなんでも、胎児が酸欠になって障害が…、というようなことは無さそうな気がする。愚挙を称える暴挙 - 新小児科医のつぶやきコメント欄を見ると、「長時間にわたって振動を与えるのがいかん」という意見もありますが。

妊娠中にフルマラソンを走りたいなんて相談を受けた医師に同情します。外来をやっていると時々ビックリするような相談を受けますが、このクラスとなると、そうそう経験できるものではありません。おそらく妊婦ランナーは「絶対に走るんだ」の物凄い勢いで相談されたように思えます。最終的に医師に強制する権利はありませんから柔和な医師なら、「無理をするのは子供に良くない」ぐらいの表現で説得したと推測します。これも「おそらく」ですが、聞いた方の妊婦ランナーは、

無理をするのは良くない → 無理さえしなければOK

「いかなる障害も乗り越えてマラソンに出場する」と言う固い意思が充満していれば、これぐらいの解釈に転じさせるのはいとも簡単と思います。

愚挙を称える暴挙 - 新小児科医のつぶやき

上記及びブコメを見た感じだと、「妊婦が医師の制止を押し切って出場した」と解釈されているようだけど、
美談化は警戒しないといけないが…(ブコメ100文字越えたのでここに) - あらきけいすけの雑記帳にも指摘されているとおり、妊婦さんの体力・健康状態などをよく把握している医師が、より具体的なアドバイスをしていた可能性はある。例えば、

  • 1kmあたり8分のペースを超えないこと。
  • 5kmごとに給水・栄養補給をきちんと摂ること。

というような。
後者の可能性まで考慮すると、結構印象が変わるような気がする。ただ、読売の記事に、

途中、おなかが張ることもあったが、

http://www.yomiuri.co.jp/sports/tm/2009/news/20090323-OYT1T00168.htm

という記述があり、そこで途中棄権した方が良かったんじゃないか?という気はする。
出走したからといって必ず完走しなければならないわけでもないし(そりゃ完走した方が望ましいけど)、「ちょっとでも違和感を感じたら途中棄権」という選択肢だってあるわけだから(「違和感」を感じてしまったらその時点で相当ヤバい気がするけど)。
まあ、自分が医者だったら、妊婦さんがどんなに誠実そうな人でも、そういう忠告を忠実に守ってもらえる自信がないので、やめさせるだろうなあ、と思う。いざレースになると、ついつい無理しちゃう人って多いから…。
あと、愚挙を称える暴挙 - 新小児科医のつぶやきについてだけど、

妊娠中にフルマラソンを走りたいなんて相談を受けた医師に同情します。

愚挙を称える暴挙 - 新小児科医のつぶやき

とあるのだが、ブックマークコメントにて、

b:id:WinterMute [スポーツ][メディア]ソースが記事だけだとすると、想像に基づいて妊婦を非難して医師に同情するのがちょっとよくわからない。この場合、「同じ医師として止めるべきだったと思う」という反応になるんじゃないのかな。

はてなブックマーク - WinterMuteのブックマーク / 2009年3月26日

と、b:id:WinterMuteさんが既に指摘しているとおり、なぜ「医師に同情する」のかがちょっとよくわからなかった。
同業者だから医師を擁護したいのかもしれないけど、本当に問題だと感じているなら、強く制止しなかった医師の方こそ批判されるべきなのではないでしょうか?否、むしろ、同業者だからこそ、医師の方を批判するべきではないかと思う。
あと、むやみに医療崩壊ネタに結び付けるのも無理があるような気がする。

あともう一つ気になる点は、妊婦がマラソンを走ったとして、実際に胎児に悪影響があるのかということ。
女子マラソンポーラ・ラドクリフ選手や赤羽有紀子選手は妊娠中も練習していたとのことなので、果たしてそんなに危険なのか?と思ってしまうところ。もっとも彼女らは単なる練習であって(せいぜい10km程度)、42.195kmを走ったわけじゃないし、競技力も違うので同列に語るのは良くないだろうが。
「いやいや、科学的根拠がなくたって、ちょっとでも不安があったらやめるべきだろ」という意見も一理あると思うのだけど、それを突き詰めていくと、「あれもするな、これもするな、妊婦は家でおとなしくしてろ」という極端な方向に転ぶ気がする。
「科学的に正しい」とも「ニセ科学」(←あまり適切な表現ではないが)とも言えない「科学的に明らか」なのか「不確か」なのかどちらとも言えない*1中途半端なものと付き合うのは、この問題に限らず難しいよなー、と思う。
この件に関しては、これだけの少ない情報で妊婦を批判するのはちょっと無理がある気がする。読売の報道のしかたがよくない、とかなら分かるけど。
妊婦を批判するのも称賛するのも、何かしらの違和感を感じてしまう。

追記(3/28 1:00)

とりあえず、コメント欄に返答。
ブックマークコメントについては全レス出来ないと思うけど、余裕があれば、また今度。ブクマが2つに分散しちゃってます。

追記(3/29 0:15)

ブコメへのレスはしたいけどしないかも…。
なぜか2つに分かれてしまったはてブですが、両者のブコメに温度差というか、雰囲気の違いがあるような気がする。ちょっと不思議な現象。

*1:ニセ科学」という言葉を使うのは表現が適切でないと考え、差し替えました。